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「スパイスの王様」。世界を動かした黒い粒
ブラックペッパーは、コショウ科のつる植物の果実を乾かしたスパイスです。白胡椒も緑胡椒も、じつは同じ木の実で、摘む時期と加工が違うだけです。
中世のヨーロッパでは貨幣の代わりに使われ、大航海時代の動機のひとつにもなりました。世界でいちばん多く取引されているスパイスは、いまもこれです。
辛さと香りが、別々のものに由来しています。舌を刺す辛さを担っているのは一つの成分。柑橘や樹木を思わせる香りは、別の六つが担っている。だから「辛いだけの胡椒」と「香る胡椒」の差が生まれます。
挽き置きの胡椒が物足りないのは、この構造のせいです。香りの側は揮発しやすく、数分で飛んでいく。残るのは辛さだけ。使う直前に挽く、という決まり文句には理由があります。
黒・白・緑・赤の違いは、摘む時期と加工です。緑は未熟なうちに、黒は完熟前を熱してから乾かし、白は完熟させて発酵させ外皮を落とす。同じ実なのに、香りも色も別物になります。
香りの行き先
辛さの素材と、甘い樹皮。菓子と料理くらい離れて見えますが、香りの成分を分け合っています。胡椒とシナモンを同じ鍋に入れると落ち着くのは、このためです。中東や北アフリカの肉料理では、この組み合わせが定番になっています。
重い辛さと、高く抜ける清涼感。役割が正反対なので並べて考えることが少ないのですが、柑橘の側で通じています。胡椒の辛さはそのままに、香りだけを上へ逃がしたいときの相手です。
辛さにはいくつも種類があります。胡椒の刺す辛さ、唐辛子の焼ける辛さ、花椒のしびれ、生姜の温まる辛さ、マスタードの鼻に抜ける辛さ。並べると、辛さが一枚の平面ではなくなります。
樹脂や松を思わせる方向。肉の煮込みやジビエで、胡椒の香りに背骨が通ります。
胡椒の重さを軽くする方向。辛さはそのままに、香りだけが上へ抜けます。
入れどき
はじめ、油に
ホール
辛さが油に移り、料理全体が温まる。
途中、下味に
粗挽き
肉や魚の表面で香ばしさに変わる。
最後、挽きたてを
挽きたて
香りの側がまっすぐ立つ。ここが本領。
粗く砕いたホールを弱火の油へ。辛さの成分は油に溶けるので、最初に入れると全体に行き渡ります。丸のまま入れて最後に取り出すのも手です。
焼く前にすり込みます。焼き面で加熱されると、辛さの角が取れて香ばしさの側へ動く。粗いほど食感が残り、噛んだところで香りが弾けます。
食卓で挽きます。香りの成分は挽いた瞬間から飛びはじめるので、皿の上で挽くのがいちばん贅沢な使い方です。
挽きたてかどうかで、体感は倍ほど変わります。分量を増やす前に、挽きたてに替えてみてください。
野菜、魚介、肉。どれとも合います。得意分野を持たないのではなく、全方位に得意です。とくに脂のある食材で効きます。脂が辛さを運び、香りを長く留めるからです。
香りの繊細な菓子には向きません。ただし例外があって、いちごやチョコレートには少量が効きます。甘さの輪郭を立てる使い方です。
カチョエペペ風のパスタ。茹で汁とチーズを乳化させて、そこへ挽きたての黒胡椒をたっぷり。材料は三つだけですが、胡椒が挽きたてかどうかで別の料理になります。
ホールで買って、ミルで挽く。これだけで香りの体感が変わります。粗挽きの袋を買うのは、香りの半分を捨てるようなものです。
粒が大きく、重く、均一なものが上等とされます。手に取ってざらざらと落としたとき、割れや粉が少ないものを。
密閉して冷暗所へ。ホールなら数年は持ちます。挽いたものは、その日のうちに使い切るつもりで。
Inspiceは、胡椒を「香りの側」の素材として扱っています。辛さを足したいときは唐辛子や花椒を使い、胡椒はもっぱら香りのために置いています。
だから加工違いを使い分けています。ブラックペッパー、ホワイトペッパー、グリーンペッパー、テリーチェリー、そしてペッパーキャビア。すべて同じ木の実ですが、摘む時期と加工で香りが変わるので、別のスパイスとして数えています。
ディッシュ シンフォニーNo.5は、その考えを一本にしたブレンドです。四種類の胡椒を並べ、香りの角度だけを変えて重ねてあります。辛さの量ではなく、辛さの種類で構成した一本です。
ブラックペッパーは、Inspiceの5つのブレンドに入っています。以下は原材料表の順位から見た層です。 ただし香りの強さは素材ごとに大きく違うので、量が少なくても主張が大きいことがあります。
同じ木の実です。黒は完熟前に摘んで熱してから乾かし、白は完熟させて発酵させ、外皮を落とします。黒は香りが強く野性的、白は香りが穏やかで上品。白身魚やクリームソースには白が向きます。
別の植物です。南米原産のコショウボクという木の実で、コショウ科ではありません。辛さもほとんどなく、甘く華やかな香りが持ち味です。名前が似ているだけで、別のスパイスと考えてください。
胡椒に関してはいちばん効果の大きい買い物です。香りの成分は挽いた瞬間から飛びはじめ、数分で辛さだけが残ります。挽きたてかどうかで体感は倍ほど変わります。
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