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Inspiceスパイス事典ブラックペッパー
ブラックペッパー(ブラックペッパー)
Black Pepper

ブラックペッパー

「スパイスの王様」。世界を動かした黒い粒

ブラックペッパーは、コショウ科のつる植物の果実を乾かしたスパイスです。白胡椒も緑胡椒も、じつは同じ木の実で、摘む時期と加工が違うだけです。

ブラックペッパーとは

学名
Piper nigrum
科名
コショウ科
使用部位
乾燥させた果実(ペッパーコーン)
原産地
インド南西部マラバール海岸
主な産地
ベトナム(現在の最大産地)、インドネシア、ブラジル、インド
和名
胡椒(こしょう)
別名
ペッパーコーン
流通の形
ホール/粗挽き/パウダー

中世のヨーロッパでは貨幣の代わりに使われ、大航海時代の動機のひとつにもなりました。世界でいちばん多く取引されているスパイスは、いまもこれです。

どんな香り

辛さと香りが、別々のものに由来しています。舌を刺す辛さを担っているのは一つの成分。柑橘や樹木を思わせる香りは、別の六つが担っている。だから「辛いだけの胡椒」と「香る胡椒」の差が生まれます。

挽き置きの胡椒が物足りないのは、この構造のせいです。香りの側は揮発しやすく、数分で飛んでいく。残るのは辛さだけ。使う直前に挽く、という決まり文句には理由があります。

黒・白・緑・赤の違いは、摘む時期と加工です。緑は未熟なうちに、黒は完熟前を熱してから乾かし、白は完熟させて発酵させ外皮を落とす。同じ実なのに、香りも色も別物になります。

香りの行き先

ブラックペッパー

意外に近い

ブラックペッパーは、このスパイスにしかない成分を二つ持ちながら、六つの成分を他と分け合っています。強い個性と広い縁を同時に持っている——どんな料理にも合うと言われる理由です。

ブラックペッパーの香りが、どの方向へ伸びるか

意外に近い素材

シナモン

辛さの素材と、甘い樹皮。菓子と料理くらい離れて見えますが、香りの成分を分け合っています。胡椒とシナモンを同じ鍋に入れると落ち着くのは、このためです。中東や北アフリカの肉料理では、この組み合わせが定番になっています。

カルダモン

重い辛さと、高く抜ける清涼感。役割が正反対なので並べて考えることが少ないのですが、柑橘の側で通じています。胡椒の辛さはそのままに、香りだけを上へ逃がしたいときの相手です。

一緒に使うと伸びる素材

辛さを多面的にする ── 唐辛子、赤花椒、ジンジャー、マスタード

辛さにはいくつも種類があります。胡椒の刺す辛さ、唐辛子の焼ける辛さ、花椒のしびれ、生姜の温まる辛さ、マスタードの鼻に抜ける辛さ。並べると、辛さが一枚の平面ではなくなります。

針葉樹の側へ ── ローリエ、ジュニパーベリー、ナツメグ

樹脂や松を思わせる方向。肉の煮込みやジビエで、胡椒の香りに背骨が通ります。

柑橘で明るくする ── カルダモン、ターメリック、コリアンダー

胡椒の重さを軽くする方向。辛さはそのままに、香りだけが上へ抜けます。

料理への応用

入れどき

はじめ、油に

ホール

辛さが油に移り、料理全体が温まる。

煮込みカレースープ

途中、下味に

粗挽き

肉や魚の表面で香ばしさに変わる。

ステーキソテー唐揚げ

最後、挽きたてを

挽きたて

香りの側がまっすぐ立つ。ここが本領。

サラダパスタスープ
ブラックペッパーを、いつ入れるか

はじめ、油にホール

粗く砕いたホールを弱火の油へ。辛さの成分は油に溶けるので、最初に入れると全体に行き渡ります。丸のまま入れて最後に取り出すのも手です。

途中、下味に粗挽き

焼く前にすり込みます。焼き面で加熱されると、辛さの角が取れて香ばしさの側へ動く。粗いほど食感が残り、噛んだところで香りが弾けます。

最後、挽きたてを挽きたて

食卓で挽きます。香りの成分は挽いた瞬間から飛びはじめるので、皿の上で挽くのがいちばん贅沢な使い方です。

分量の三段階(2人分の目安

気配ほどミル3回転料理が締まる。胡椒とは気づかれない
効かせるミル6回転胡椒の香りだとわかる。ふだんはここ
主役にする小さじ1/2(粗挽き)胡椒の料理になる

挽きたてかどうかで、体感は倍ほど変わります。分量を増やす前に、挽きたてに替えてみてください。

この食材と合う理由

野菜、魚介、肉。どれとも合います。得意分野を持たないのではなく、全方位に得意です。とくに脂のある食材で効きます。脂が辛さを運び、香りを長く留めるからです。

香りの繊細な菓子には向きません。ただし例外があって、いちごやチョコレートには少量が効きます。甘さの輪郭を立てる使い方です。

うまくいかないときの直し方

  • 辛いだけで香らない挽き置きです。香りの成分は数分で飛びます。ミルを買うのが最短の解決です
  • 辛すぎた油脂か乳製品で包みます。バター、生クリーム、チーズ。酸で締めるのも効きます
  • 焦げて苦い粗挽きを強火に長く当てています。仕上げに回すか、丸のまま使ってください

一皿の設計例

カチョエペペ風のパスタ。茹で汁とチーズを乳化させて、そこへ挽きたての黒胡椒をたっぷり。材料は三つだけですが、胡椒が挽きたてかどうかで別の料理になります。

選び方・保存

ホールで買って、ミルで挽く。これだけで香りの体感が変わります。粗挽きの袋を買うのは、香りの半分を捨てるようなものです。

粒が大きく、重く、均一なものが上等とされます。手に取ってざらざらと落としたとき、割れや粉が少ないものを。

密閉して冷暗所へ。ホールなら数年は持ちます。挽いたものは、その日のうちに使い切るつもりで。

Inspiceでは、どう使っているか

Inspiceは、胡椒を「香りの側」の素材として扱っています。辛さを足したいときは唐辛子や花椒を使い、胡椒はもっぱら香りのために置いています。

だから加工違いを使い分けています。ブラックペッパー、ホワイトペッパー、グリーンペッパー、テリーチェリー、そしてペッパーキャビア。すべて同じ木の実ですが、摘む時期と加工で香りが変わるので、別のスパイスとして数えています。

ディッシュ シンフォニーNo.5は、その考えを一本にしたブレンドです。四種類の胡椒を並べ、香りの角度だけを変えて重ねてあります。辛さの量ではなく、辛さの種類で構成した一本です。

よくある質問

黒胡椒と白胡椒は何が違いますか?

同じ木の実です。黒は完熟前に摘んで熱してから乾かし、白は完熟させて発酵させ、外皮を落とします。黒は香りが強く野性的、白は香りが穏やかで上品。白身魚やクリームソースには白が向きます。

ピンクペッパーは胡椒の仲間ですか?

別の植物です。南米原産のコショウボクという木の実で、コショウ科ではありません。辛さもほとんどなく、甘く華やかな香りが持ち味です。名前が似ているだけで、別のスパイスと考えてください。

ミルは本当に必要ですか?

胡椒に関してはいちばん効果の大きい買い物です。香りの成分は挽いた瞬間から飛びはじめ、数分で辛さだけが残ります。挽きたてかどうかで体感は倍ほど変わります。

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